岡山地方裁判所 昭和55年(ワ)817号 判決 1984年4月29日
原告
株式会社向井組
右代表者
向井明夫
右訴訟代理人
河田英正
被告
赤刎正年
被告
中田清一こと
朴殷在
右両名訴訟代理人
浦部信児
被告
小山克行
主文
一 原告に対し
1 被告赤刎正年・同朴殷在は、各自金一二一六万二三三〇円、
2 被告赤刎正年・同小山克行は、各自金七五万七九〇五円
3 被告赤刎正年は金一一八三万七七六五円
及びこれらに対する昭和五八年七月九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告朴殷在に対するその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告らの負担とする。
四 この判決は仮に執行することができる。
事実《省略》
理由
一<証拠>によれば請求原因1ないし3の事実が認められる。
二請求原因4につき
<証拠>によれば次の事実が認められる。
1 昭和五四年初頃、被告赤刎正年は当時かかえていた負債を返済するため本件不動産を売却しようとして、その旨長田文男に依頼した。
2 長田文男は、被告赤刎正年の了承を得て、岡山県商工信用組合早島支店に被告赤刎正年名義の預金口座を開設し、本件不動産が売却された場合売買代金を一時入金してその口座から被告赤刎正年の債務を返済していくこととした。
3 また、長田文男は被告赤刎正年に「売買の話がまとまりそうだ。」との旨伝えて印鑑を預り、その印鑑を用いて向井礼一郎との間で請求原因1記載の内容の売買契約書を作成した。なお実際の約定の売買代金は四八〇〇万円であつたが、対税上、右売買契約書では代金額は三六〇〇万円と記載されていた。
4 長田文男は、支払を受けた代金のうち二〇〇〇万円を前記被告赤刎正年名義の預金口座に入金し、その中から被告赤刎正年の株式会社明正不動産に対する債務約五〇〇万円、岡山県信用保証協会に対する債務約一三〇〇万円等を弁済し、本件不動産につけられていた右債権を被担保債権とする根抵当権登記等を抹消した。
5 昭和五四年八月、長田文男は本件仮登記をするため被告赤刎正年から印鑑を預つた。そのとき被告赤刎正年の代金額は希望どおりになるかとの質問に対し長田文男は対税上契約書では代金額は三六〇〇万円であるが代金の追加があるので希望どおりになる旨答えた。
以上の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
右認定事実に、<証拠>を総合すれば、被告赤刎正年は長田文男に対し、本件不動産を適宜売却しその売却代金でもつて自己の債務を弁済することの代理権を与えていたと認められ、右代理権には当然請求原因1の本件売買契約を締結する権限、同2の代金を受領する権限、同3の買主の地位の移転に同意する権限を含んでいたと解することができる。
なお、被告赤刎正年本人の供述によると同被告は自己に坪三〇〇万円当りの代金の入金がなく、実際の入金額は二〇〇〇万円であることが不満のようであるが、それは被告赤刎正年と代理人長田文男との内部関係にすぎず、請求原因2のとおりに代金全額を支払つている以上、前記認定・判断を覆すに足りる事情とはいえない。
三請求原因5ないし8の事実は当事者間に争いがない。
四抗弁につき<省略>
五被告赤刎正年に対する請求につき
以上のとおり、本件売買契約は有効に成立したが、結局任意競売により本件不動産は売却され、本件仮登記も抹消されたのであつて、被告赤刎正年は原告に対し、債務不履行(履行不能)に基づく填補賠償として本件不動産の時価相当額(特別の事情の主張・立証のない本件では競売価格三七七五万八〇〇〇円と推定することができる。)の支払義務あること明らかである。
従つて、右の内金請求たる被告赤刎正年に対する本訴請求は理由がある。
六被告朴殷在、同小山克行に対する請求につき
被告ら主張のとおり仮登記の本来的効果は順位保全の効力であり仮登記のままでは対抗力はない。
しかしながら、仮登記権者が不動産登記法一〇五条一項、一四六条一項に基づき利害関係人に対し本登記の承諾請求をした場合には、利害関係人としてこれを拒む理由としては仮登記権者の所有権取得そのものを争うことしかなく、本登記がないから承諾を拒むということはできない。つまり、承諾を求められた利害関係人は仮登記権者の所有権取得につき登記(本登記)の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に該当せず、仮登記権者はその所有権取得につき登記(本登記)なくして利害関係人に対抗できると解することができる。
これを本件につきみるに、原告は利害関係人たる被告朴殷在、同小出克行に対し本件仮登記に基づく本登記手続の承諾請求訴訟を提起していたのであるから、原告に登記(本登記)がなくとも本件不動産の所有権を取得したことを同被告らに対抗することができ、従つて、原告は同被告らに対し、請求原因8記載の配当手続において、同被告らが根抵当権者であるとしてなされた配当は法律上原因のない無権利者に対する配当であり、所有者たる原告に配当されるべきであつたとして、その配当額相当額の不当利得返還請求債権を有すると解することができる。なお被告朴殷在に対する配当のうち手続費用相当分五二万五九六五円については不当利得返還請求債権を有しないことは明らかである。
七よつて、原告の被告赤刎正年・同小山克行に対する請求はすべて理由があるから認容し、被告朴殷在に対する請求のうち、一二一六万二三三〇円とこれに対する損害金の支払請求部分は理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(東畑良雄)